フロアタイルの突き上げはなぜ起きる?
2026.8.5
日当たりの良い場所で増えている原因と対策
日当たりの良い部屋だけ、フロアタイルの突きつけ部分がボコッと浮いてくる。近年、この「突き上げ」のご相談が明らかに増えています。原因は材料不良ではありません。床の表面温度と接着剤の耐熱性能。その2つを並べて考えると、理由がはっきりします。
目次
- 突き上げとは何か
- 原因1:暑さの「質」が変わった
- 締め切った空室の中で起きていること
- 原因2:床材は思った以上に伸びている
- 原因3:接着剤には熱の限界がある
- 高温の影響は床だけではない
- 突き上げを防ぐ4つの対策
- 施工前チェックリスト
- 大判サイズを使う場合
- まとめ
突き上げとは何か

フロアタイルの突き上げとは、フロアタイルの突きつけ部分、いわゆる目地が持ち上がり、波打つように浮いてくる現象です。
特徴的なのは、発生する場所が偏ることです。同じ部屋でも日の当たる窓際だけ、あるいは日当たりの良い部屋だけで起きます。北側の部屋では起きない、というケースがほとんどです。
この偏りが、原因を特定する最大の手がかりになります。
原因1:暑さの「質」が変わった
「昔はこのやり方で問題なかった」
現場で、このような声をよく聞きます。事実、以前は問題にならなかった仕様です。変わったのは施工方法ではなく、気候の方です。
気象庁の統計が示す変化
2025年夏の気象データを見ると、近年の暑さが従来とは異なる段階に入っていることが分かります。
- 2025年夏(6〜8月)の平均気温平年差 +2.36℃
- 1898年の統計開始以来最高値
- 夏の平均気温3年連続で更新
- 最高気温40℃以上の地点数延べ30地点
- 猛暑日となった地点数延べ9,385地点
そして象徴的なのが、次の数字です。
気象庁は2026年4月、最高気温40℃以上の日を「酷暑日」と定めました。観測開始から2025年までに、国内の観測地点で40℃以上を記録したのは延べ108回。そのうち約4割にあたる41回が、2023年から2025年までのわずか3年間に集中しています。
40℃という暑さは、かつての「例外」から、毎年起こり得る現実へと変わりつつあります。これまでの施工の常識が通用しない温度帯に入ってきている、ということです。
出典:気象庁公表資料(2026年4月)
締め切った空室の中で起きていること
もっとも条件が厳しくなるのが、施工後から引渡しまでの空室です。
例えば、夏場の賃貸住宅の原状回復現場。施工が終わった後の部屋は、エアコンが止まり、カーテンもなく、窓を締め切ったまま、数日から数週間放置されることがあります。
室内はどこまで上がるか
外気温が35℃前後になる猛暑日に、無遮蔽・無換気・無冷房の室内では、次のような状態になることがあります。

- 室内の空気温度40〜45℃
- 窓際の床表面温度50〜60℃
- 濃い色の床材65℃近くの場合も
最上階や西向きの部屋では、さらに厳しい条件になることがあります。
なぜここまで上がるのか
普通のガラスは日射熱を大部分取り込む
普通のガラスは、日射熱の大部分を室内に取り込みます。普通単板ガラスの日射熱取得率は約0.88。一般的な複層ガラスでも約0.79です。
ペアガラスだから日射熱を大幅に防げる、というわけではありません。 カーテンや日射を遮るものがなければ、窓から入った熱は床に直接届きます。
日射のエネルギーが大きい
真夏の直射日光は、窓越しでも非常に大きなエネルギーを持っています。窓際の床材は、電気ストーブを至近距離から当て続けているような状態になります。
熱の逃げ場がない
換気もエアコンもなければ、窓から入った熱は室内に蓄積されます。施工直後のもっともデリケートな時期に、床材がサウナに置かれているような状態だとお考えください。
これは賃貸住宅の原状回復に限りません。店舗の引渡し前、住宅の完成後、オフィスの施工後など、入居や使用開始まで空き期間がある現場では、同じような条件が発生します。
床の「色」でも差が出る
床材の色によっても、表面温度には差が出ます。
- 明るい木目・白系50〜55℃程度
- ダークブラウン・黒系60〜65℃近く
濃い色は日射を吸収しやすいため、明るい色よりも表面温度が上がりやすくなります。濃い色の大判材は意匠性が高く人気がありますが、日当たりの良い部屋に採用する場合は、リスクが高くなると考えてください。
原因2:床材は思った以上に伸びている
塩ビ系床材は、温度によって伸び縮みします。これは製品の欠陥ではありません。塩化ビニルという素材が持つ物理的な性質です。
伸び量の試算
施工時の床材温度を20℃とし、床面温度が55〜60℃まで上昇した場合、部屋全体では次のような寸法変化が考えられます。
- 長辺4,000mm / 床面55℃約2.1mm
- 長辺4,000mm / 床面60℃約2.4mm
- 長辺5,000mm / 床面55℃約2.6mm
- 長辺5,000mm / 床面60℃約3.0mm
- 長辺6,000mm / 床面55℃約3.2mm
- 長辺6,000mm / 床面60℃約3.6mm
※線膨張率を1.5×10⁻⁵/Kと仮定した参考値です。実際の数値は製品により異なります。
一方、突きつけ部の推奨される隙間は、「名刺1枚程度」といわれます。およそ0.2〜0.3mmです。

数字を並べると一目瞭然です。床材が伸びようとする量に対して、逃げ場が足りません。
壁際や目地に十分な逃げ場がなければ、行き場を失った床材は上方向に逃げます。これが、突き上げの正体です。
原因3:接着剤には熱の限界がある
ここが、突き上げを考えるうえで最大の落とし穴です。
接着剤は「固まり方」で2種類に分かれる
水性アクリル系
水分が抜けて固まるタイプです。例えるならチョコレートに近く、熱が加わると柔らかくなり、温度が下がると再び戻る性質があります。
低臭で扱いやすく、一般的なフロアタイル施工で広く使用されていますが、高温条件では保持力が低下する場合があります。
ウレタン系・エポキシ系
化学反応によって固まるタイプです。こちらは、ゆで卵に近いイメージです。一度化学反応によって硬化すると、熱が加わっても元の状態には戻りにくくなります。
床の温度と接着剤の限界が近づいている
日の当たる窓際では、床表面温度が50〜65℃近くになることがあります。一方、接着剤には、保持力が低下しやすい高温域があります。

重要なのは、「限界温度を超えていないから大丈夫」とは限らないことです。温度が高くなるにつれて接着剤の保持力が低下し、床材の動きを十分に抑えられなくなる場合があります。
特に濃い色の床材では、接着剤にとって厳しい高温域に入りやすくなります。
2つが同時に起きる
日の当たる床の上では、次の2つが同時に起きています。
- 床材は熱によって伸びようとする
- 接着剤は高温によって踏ん張る力が弱くなる
床材は動こうとしているのに、それを下地へ固定している接着剤の保持力は弱くなる。日当たりの良い場所だけで突き上げが集中する理由がここにあります。
アクリル樹脂系エマルション形接着剤の技術資料には、次のような注意事項が記載されています。
張り付け後、1週間程度は急激な空調の使用や直射日光の差し込みなどを避け、自然換気に努めてください。 アクリル樹脂系エマルション形接着剤の技術資料より
引渡し前の空室は、まさにこの条件から外れやすい状態です。一度、お手元の床材・接着剤の商品資料や施工要領書をご確認ください。
なお、水性アクリル系でも、硬化剤を併用する2液タイプなど、耐熱性を高めた製品があります。「アクリル系はすべて使用できない」ということではありません。使用する場所と条件によって選び分けることが重要です。
施工不良とは限りません
オープンタイムを正しく守って施工した現場でも、突き上げが発生した事例があります。職人さんの腕の問題ではなく、施工後に置かれた環境条件の問題である場合があります。
高温の影響は床だけではない
60℃近い高温環境が続くと、フロアタイル以外の内装材にもトラブルが発生しやすくなります。
複合・無垢フローリング
- 突き上げ
- 収縮
- 表面コーティングの割れ
クッションフロア
- 波打ち
- 浮き
- 変色
窓まわりのクロス
- 糊の熱劣化
- コーキングの劣化
- 窓際の剥がれ
引渡し後に「なぜ、ここだけトラブルが起きたのか」となる場所は、たいてい日の当たる窓際です。
突き上げを防ぐ4つの対策

- 対策 1 日射部は接着剤を耐熱タイプにグレードアップする 窓際・日の当たる部分だけで構いません。水性アクリル系ではなく、ウレタン樹脂系・エポキシ樹脂系など、高温条件に適した接着剤を選定します。 過去には「日の当たるところだけ接着剤を変えたらおさまった」という事例も複数あります。 ※使用する床材との適合性は、接着剤・床材メーカーの指定をご確認ください。
- 対策 2 巾木下にクリアランスを取る 壁際まで、床材をぎりぎりに詰めないでください。伸びた床材の逃げ代がなければ、伸びた分は上方向へ逃げます。 巾木の下など、見えない部分でクリアランスを確保することが重要です。
- 対策 3 突きつけを詰め込みすぎない 名刺1枚程度の隙間を守ってください。特に冬場は、床材が低温によって縮んだ状態になっています。 その状態で強く突きつけて施工すると、夏に床材が伸びた際、動くための余裕がなくなります。
- 対策 4 / 推奨 引渡しまで窓を養生する 手軽なわりに、もっとも効果が出やすい対策です。おすすめは「養生クレープカーテン」などを使い、窓から入る直射日光を遮ることです。 日射が床に直接当たらなくなるだけでも、床面温度の上がり方は変わります。夏場施工の標準作業として、窓の養生を組み込んでしまうのがおすすめです。 引渡し前に一度換気し、室内にこもった熱を逃がしておくと、さらに安心です。
補足:窓の仕様も確認する
遮熱タイプのLow-E複層ガラスは、普通の複層ガラスに比べて、室内に入る日射熱を抑えられます。
ただし、Low-E複層ガラスだから対策が不要になるわけではありません。窓の方位、日射の入り方、カーテンや庇の有無なども合わせて確認してください。
施工前チェックリスト
※寸法や施工条件は、使用する製品の施工要領書を優先してください。
- 材料を24時間以上前に現場へ搬入したか
- 室温15〜25℃、湿度75%以下になっているか
- 下地の含水率は基準内か
- 日射部の接着剤は高温条件に適したタイプか
- 巾木下のクリアランスを確保したか
- 突きつけは名刺1枚程度隙間をあけているか
- ハンドローラーなどで入念に圧着したか
- 引渡しまで窓を養生できているか
- 濃い色の床材を日当たりの良い部屋に使う場合、接着剤とクリアランスの対策を強化したか
大判サイズを使う場合
膨張率そのものは、大判材も従来サイズも大きくは変わりません。素材が同じである以上、材料としての基本的な性質も同じです。
異なるのは、伸びようとする力の受け止め方です。大判材は1枚が大きく、目地の本数が少ないため、伸びた際の力が少ない箇所に集まりやすくなります。そのため、逃がし方の設計がより重要になります。
大判材を使用する場合は、特に次の2点を確実に実施してください。
巾木下のクリアランス
端部に逃げ代を設け、床材の動きを吸収させます。
日射部の接着剤選定
大きな窓や開口部がある場合は、日射が当たる範囲の接着剤を慎重に選定します。
濃い色の床材は表面温度が上がりやすいため、日当たりの良い部屋で使用する場合は、この2点をより確実に実施してください。
まとめ
日当たりの良い場所で発生するフロアタイルの突き上げには、次のような背景があります。
- 夏の暑さが以前とは別物になっている
- 締め切った空室の床は50〜60℃、濃い色では65℃近くまで上がる場合がある
- 床材は温度上昇によって伸びる
- 接着剤は高温になるほど保持力が低下しやすい
- 床材は伸びようとする一方で、接着剤は踏ん張りにくくなる
- その結果、日の当たる場所だけで突き上げが発生する
対策はシンプルです。日射部の接着剤を高温条件に適したタイプへ変更すること。そして、接着剤が十分に硬化するまで、窓を養生して直射日光を遮ることです。
この2つだけでも、夏場の突き上げトラブルを大きく減らせる可能性があります。
フロアタイルの突き上げ・接着剤選定についてご相談ください
- この現場では、どの接着剤を使えばよいのか
- 日当たりの良い窓際だけ、施工方法を変えた方がよいのか
- すでに突き上げが発生しているが、何を確認すればよいのか
このようなご相談も承ります。現場条件をお聞きしたうえで、床材や接着剤の仕様をご提案します。
※本記事は一般的な技術情報です。室内温度、床表面温度、床材の寸法変化、接着剤の温度特性は、製品、下地、窓の仕様、方位、日射、換気、空調などの条件によって変動します。
実際の施工にあたっては、使用する床材メーカーおよび接着剤メーカーの最新の施工要領書・技術資料を必ずご確認ください。
突き上げには、下地、施工条件、接着剤の選定、製品固有の要因など、日射以外の原因が関係する場合もあります。
気温統計は、気象庁の公表資料に基づいています。
株式会社イシカワ
